駆け引き

空中戦を制し流れをつかむ

落下地点を予測せよ

空中戦と言えば、フォワードやディフェンダーによるペナルティエリア内でのボール争奪戦を想像する人は多いだろう。
もちろん、ボランチもそれに参戦するケースは多々ある。

だが、最もボランチにとって多いのが、相手ゴールキーパーからのゴールキックの競り合いだ。
競り合いに勝つことで、味方がこぼれ球を拾いやすくなり、それが直接、自チームの攻撃回数アップにつながる。

競り合いに勝つにはまず、ゴールキックがどこに落ちてくるか予測する必要がある。
これが意外と苦手な選手が多い(ヘディングが嫌いで敬遠している人も多いが)。
こういった人はおそらく、野球の外野フライを取るのもおそらく苦手だ。

外野フライを取るのがうまい人は、バットにボールが当たった瞬間、いろいろな情報をキャッチアップしているからに他ならない。
打球音や打球の角度、打球の速度などの瞬間の情報プラス長年の経験。
それらの情報を総合して、ボールの角度落下地点を予測し、いとも簡単に(周りから見てる分には)ボールを取っている。

ゴールキックなどの浮き球に対して苦手意識のある人は、前述したような外野フライを取る練習をするといい。
自分で高く投げたボールを取るでもいい。別にグローブ買う必要はない。素手で構わない。
軟式ボールなど硬いボールだと指にケガをする可能性があるので、ゴムボールなどやわらかいボールで大丈夫。
落下地点を予測する訓練なのだからうまくキャッチできなくても大丈夫だ。
反復して練習してみよう。

完全勝利にこだわらない

ペナルティエリア内でのせめぎ合いやゴールキックやスローインなどの浮き球の奪い合いなど、空中戦は様々なケースで起こる。
いかんせん、ジャンプ力などの身体能力や身長などの体格により、残酷なほど差が出るものだ。
それは日々の練習で、完璧にカバーできることではない。レベルが高いステージほどそう感じる。

だが、前述した落下地点の予測の早さ、正確さで勝率を高めることはできる。
それに空中戦においてはボール奪取や競り合いに勝つ(ディフェンスで言えばクリア)など、
言わば「完全勝利」を求める必要は必ずしもないということだ。

落下地点に相手より素早く入り、高さで負けたとしても、いいポジショニングで体を寄せることで、
質の高いヘディングプレーをさせなければいい。
そうすれば、ペナルティエリア内のヘディングシュートだとしてもキーパーを出し抜くほどの勢いは出ない。
パスでも中途半端なものになれば、味方がこぼれ球を拾ってくれるかもしれない。

これもチーム全体でこぼれ球に対する意識を強めることが結果的に重要になってくるということである。

こぼれ球は試合の勝敗を左右する

こぼれ球を拾い、攻撃につなげる

こぼれ球を拾えるかどうか。
大したことのないように聞こえるかもしれないが、試合全体においてこれは大きなポイントだ。

例えば、相手のトラップミス、選手同士の競り合い、パスが選手の足にあたって方向が変わる…
このボールを拾うことができれば、ピンチを脱出した上に、場合によってはカウンターを仕掛ける大チャンスとなる。

こぼれ球を拾う役割はチーム全員にあるが、ディフェンスラインのフィルター役である、ボランチがそれを担う頻度は高い。
相手、味方の攻撃問わず、ロングボールやセンタリングからのこぼれ球を拾うことがポジションの位置関係上、確率が高いからだ。

ボランチがこぼれ球への反応が悪いと確かにリズムは出ない。
しかしながら、それで結果的にチーム全体のプレイクオリティが落ちたとしてもボランチに責任があるとは言えない。
前述したとおり、こぼれ球を拾うのは「チーム全員」だからだ。

こぼれ球を拾うには全体のポジションをコンパクトにしなければならない。
ディフェンスラインを押し上げ、空いたスペースを極力なくす。
それにより、各選手が相手より一瞬早くボールにトライできる。

どんなにボランチが優秀でもディフェンスラインとの間が大きく開いていたら、カバーするのは不可能だ。

こぼれ球を拾うか「確率」を上げる

味方選手の積極的な守備関与が重要なのは先に述べたとおりだが、
それ以外にこぼれ球を拾う確率が上がる方法がある。

それは味方選手の特徴や動きから予測し、うまく利用することだ。
プレスのうまい選手が寄せいった場合は、抜かれることはないならば、どこかにパスをするはず、そのミスパスを狙う。
他にも空中戦に強いディフェンダーがいて、かなりヘディングが強い選手がいるなら、
ディフェンスラインから少し離れた場所に位置すれば、こぼれ球近くにポジショニングできる。
ヘディングが弱い場合はその逆。ディフェンスライン近くにポジショニングする。

もちろん確率を上げるだけで、絶対にこぼれ球をとれる保証はないが、少しでもピンチを防ぎ、チャンスの回数を増やす意味ではやってみる価値は大いにある。

トラップした瞬間を狙え

トラップ=隙ができる

ボールを受けた瞬間、相手は顔を下げてしまう。
つまり、周りを見ていない時間が発生することになる。
どんな技量の選手にもこれはあてはまる。

周りを見ていない時間、距離を詰められるとミスを誘発する可能性が高くなる。
相手がトラップをミスしてボールをこぼしてしまった時がチャンス。
距離をつめることで、次のプレイを阻害できるし、あわよくばボールを奪うこともできる。

ボールを奪えなくても寄せは無駄にはならない

自分の後ろのディフェンスラインの選手も様々な選択肢を想定しないといけない。

ボールを持った選手にプレッシャーがかかれば、視野が狭まるため、
「裏へのスルーパスが出しにくいだろう」とか、「大きく逆サイドへの展開は難しいだろう」
では「無理やりドリブルで抜いてくるかもしれない。そこをフォローしよう」
など、先を読むのがたやすくなる。
ボランチはディフェンスラインのフィルターとしての役割もあるが、ディフェンダーの行動選択肢を絞ってやることも重要だ。
前述したトラップ際を詰めることは傍からみると、効果がないように見えるが、相手にとって見た目以上のプレッシャーを与えている。
チーム一人一人が一枚岩となり、こつこつとやるのがチームディフェンスというもの。
ボランチはそれを率先してやらなくてはならない。

やみくもに突っ込むのはNG

全力ダッシュで突っ込むのは×

試合中、ボールを持っている相手選手に闘牛のように突進した選手が、マタドールにいなされるかのように華麗にかわされる場面をみたことがあるだろう。
これはあまり上手ではないアプローチだ。
すばやくアプローチをしたほうがボールを奪いやすいと勘違いしている。

なぜ、良くないのか?
当たり前のことだが、スピードが速ければ速いほど自分の体をうまくコントロールできないからだ。

アプローチにとって重要なのは「いつスピードアップするか」である。

良くない寄せ方として、アプローチ対象の相手選手に対し、少しずつスピードをあげていくというのがある。
このやり方だと相手選手にクルッと回られたり、ドリブル方向を変えられたりすると対応できない。

良い寄せは頑張るところを見極める

良い寄せとは最初にスピードアップし相手との距離をつめる。
相手がボールを受けているときには、どっしりと腰をすえて待ち構えることだ。

うまい選手もそうでない選手も運動量は同じ。
だが結果、ボールを奪える選手と奪えない選手とで差がつくのは、頑張るところの見極めだ。

大事なのは良い寄せ方を理解し、実践しているかどうか。
寄せ方がわからないと、やみくもに突っ込み、ボールが奪えず、スタミナだけが減っていく悪循環になる。

同じスタミナを使うなら良い寄せ方で結果を出すのが得だ。

以外なほど奥深い「寄せ」

相手のプレーを予測する

ディフェンスをするときにポイントになる寄せ。
これにも大事なポイントがいくつも存在する。
まず、寄せるタイミング。
状況によってケースバイケースだが、ボールを所持している選手(相手)からボールが離れた(蹴られた)タイミングだ。
これより速いと、狙っているのがばれてしまう。

そして、位置関係。どこから寄せるかということ。
ボールをもらった選手にそれとなく寄っていっても効果的な寄せにはならない。
ボールをもらった選手の体の向き、利き足などでプレーを予想し、どこから寄せるかを瞬時に判断する。パスで展開すると予想したら、その方向から寄せるのが大事。
相手の優先順位1位のプレーを打ち消すことで相手はかなり戸惑う。

利き足でないほうのプレーが苦手そうな相手に有効なのは利き足側から寄せるという方法だ。
特に左利きの選手は、右足でのプレーを普段からあまりやらないことが多い。
左利きのアドバンテージをより有効に使うため、左足プレーの練習に重きをおきがちだからだ(もちろん右利きの選手もありがちだが左利きの選手が顕著)。
利き足からの寄せにより、相手は利き足以外のプレーを余儀なくされ、プレー精度が低下すればボール奪取の可能性は高まる。

相手を戸惑わせる寄せ

こちらの寄せにより相手が戸惑うような寄せが特に有効だ。
相手のアクションを待つのではなく、こちらからアクションする寄せが相手を迷わせる。寄せをする際は、相手が何をやってくるかを頭の中で決めつけず、何種類かをシミュレートしておいたほうがいい。

その中で優先順位をつけ、トラップしたボールの方向、ボールの持ち方で、寄せの速さ、方向をフレキシブルに転換していくと
良い結果に結びつく。

アプローチの重要性

個々の能力で違うアプローチ

ボランチのディフェンスで大事なのはアプローチの仕方だ。センターバックはゴールに背をむけるような状態の選手をマークすることが多いが、ボランチは基本的に前を向いている選手をマークする場面が多い。

現代サッカーの主流であるゾーンディフェンスでは、ボランチは自分の担当エリアに入ってきた相手選手に対してアプローチする。ただし、アプローチできる範囲は選手個々の能力によって決まる。

ポジショニングの良し悪しを考える

ボールにアプローチするスピードが遅ければ、相手にプレッシャーを与えることができない。相手側からすると、中途半端なスピードで突っ込んできてくれる相手は最もかわしやすい。

だが、スピードでがないならないで、やりようはある。例えば、自分から10m離れたところで相手選手がパスをもらおうとしている。10mの距離をいっぺんに縮めることは不可能でも、パスが出るタイミングを予想して、あらかじ5m近づいておけば、ボールに寄せる距離が縮まる。

良いディフェンスをするにはポジショニングが必要不可欠である。アプローチをする前から勝負は決まっている。